「金融庁戦記」大鹿靖明著 講談社刊

カネボウ巨額粉飾決算事件。ライブドア粉飾決算。AIJ投資顧問事件。山一、オリンパス飛ばし。東芝問題。仮想通貨等々。平成の経済事件簿の集大成ような本です。どれも綿密な取材をもとに実名でバッサバッサと。

〇著者の大鹿靖明氏は1965S40)年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。1988 (S63) 年朝日新聞入社。アエラ編集部などを経て現在、経済部記者。「ヒルズ黙示録・検証・ライブドア」「東芝の悲劇」「ゴーンショック・日産カルロス・ゴーン事件の真相」等。

〇日本経済新聞社員によるインサイダー取引の摘発や東芝の粉飾決算村上世彰への再度の強制調査など金融・証券事件が起きるたびに佐々木清隆氏に取材する機会があり、結局15年の付き合になった。佐々木氏が「自分ほど事件に関わった人間はいない」という趣旨の言葉を漏らすのを聞き、「佐々木事件史」として回顧録でまとめられてはいかがですかといったのがきっかけで出来た本。朝日新聞朝刊経済面に「企業監視20年」として5回連載したのが本書に至る経緯である。佐々木氏は退官後、一ツ橋大学で客員教授。

〇「サルにマシンガン」。権力を笠に着て強権を振りかざす検査官たちを揶揄。

 「カネボウの巨額粉飾決算」。カネボウ120年の歴史に終止符。

 「山一と大和の決断」。選択は経営者の問題か。

 「オリンパス・東芝・仮想通貨」。NO426 「数々の事件」

大蔵省は明治以来、先進国に学ぼうと海外の動向を調べそれを輸入する文化だった。海外事例や過去の取り組みから模範解答を学習しさえすればよかった。金融の自由化、金融機関の破綻処理、証券取引等監視委員会の設立検査による金融機関の健全性チェック、あるいは課徴金制度の導入などどれもこれも欧米、とりわけアメリカの政策の輸入だった。

つまり「過去問」行政だった。官僚たちは、大学受験の時に赤本の問題集を参考に出題傾向を分析するような習性から抜け出せないのだ

「クリエイティブではないんです。過去をベースにしたバックワード・ルッキングは強くても白地に何かを描くようなフォワード・ルッキングやアジェンダ・セッテイングは弱いんです。」(佐々木氏談)

1995H7)年に入って東京協和・安全の二信組問題が表面化すると、宮澤喜一首相の秘書官を務めていた大蔵省のエリートコースに乗っていた中島義雄主計局次長等が東京協和の高橋治則理事長(イー・アイ・イ・インターナショナル社長)からプライベートジェット機で海外に遊びに連れて行ってもらうなど行き過ぎた接待を受けていたことが発覚した。中島はそれ以外にもさまざまな企業経営者から少なくとも一億二千万円もの金銭の供与を受け税務申告をすることなく密かに蓄財していたことも明らかになった。「サラ金」問題が批判を浴びたときの銀行局長だった徳田博美は退官後非常勤監査役に就いていたサラ金の武富士から「株式公開に向けた指導をしてほしい」と値上がり確実な未公開株を自分の長女名義で譲渡されていた。しかも、娘夫婦がマンションを売りだすと武富士の関係する企業が買い取ってくれていた。

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