「バックパックを背負ってスペインを歩こう!!」
主宰 細川秀人さん67歳

 細川さんの朝は早い、毎朝3時半には起床する。スペインはサマータイムで19時30分、巡礼者は夕食が終わり、明日の計画を立てる時間だ。その時間に合わせて現地からの質問に答えたり情報を提供したりするためだ。
 2016年4月巡礼の旅に出発。一般的には最も有名で人気のルート「フランス人の道」767キロを選ぶ人が多い中、更に732キロ手前のフランス南東部から始まる「ル・ピュイの道」から歩き始めた。約1500キロの道を3カ月かけて歩いた。
 当時は今のようにブログやFBは普及しておらず簡単に情報は集まらなかった。しかしもともと調べることが大好きだったのでコツコツと手探りで調べていった。どのガイドブックよりも詳しい自作の行程表とAlbergue一覧が出来た。(*アルベルゲ:巡礼宿)せっかく手に入れた情報を独り占めしてはもったいないと思い、FBグループ「バックパックを背負ってスペインを歩こう!!」を立ち上げた。最初は30人ぐらいだったが今では700人の会員を誇る。帰国後は京都、大阪、奈良でも少人数のセミナーや勉強会を開催した。作成したリストには宿の情報はもちろんのこと、GPSでの位置情報、トイレや洗濯場の情報まで事細かだ。もちろん無償で提供している。そしてこのリストは毎年すべてを調べなおして最新情報にしている。巡礼の途中でそのリストを見た外国人がぜひ欲しいと言われたこともあった。今までに巡礼に送り出した仲間は優に100名を超える。一人でも多くの人に巡礼の道を歩いてほしい。そんな気持ちで今日も3時半からの活動が始まる。

―旅に興味を持ったのはいつ?ー
 小学生のころから旅が大好きでした。毎月国鉄の時刻表を買って眺めるような少年でした。学生時代にはワイド周遊券を買って全国を回りました。当時の宿は主にユースホステル、夜は宿泊者全員参加でミーティングなどがあって旅の情報交換から悩み相談まで、とても密でした。旅の情報は沢山持っていましたのでレクチャーなんかもしていました。お金を節約するために駅のベンチで寝たこともあります。今のように締め出されることもなく世の中全体が寛容だったと思います。

―はじめは世界一周される予定だったとかー
 就職して15回も全国を転勤。退職後は海外でロングステイをしたいなと思っていましたので50代は妻と一緒にアジアを旅しました。2015年定年になりました。まずは妻と3カ月西ヨーロッパを歩き回りました。最初の計画ではヨーロッパの後、妻にはそのまま日本へ帰国してもらって、私は準備をした上、一人で世界一周に出発しようと思っていました。更に世界一周の後にスペイン巡礼も計画していました。ところが3カ月ヨーロッパを歩くうちに膝の負担などを考えると体力があるうちに巡礼を先にしようと計画を変更しました。そして日本に帰ってから準備を始めました。

―巡礼の宿はどんなところー
 巡礼の道には公営、私営の宿、アルベルゲが沢山あります。値段も公営は基本寄付制から10ユーロ前後、私営でも10ユーロから20ユーロ。食事も巡礼者定食が巡礼路上のレストランやパブなどに10ユーロで準備されていて、それも前菜から始まってデザートまで。もちろんワインも一杯つきます。場所によってはひとりで行ってもボトル一本の時もありました。食事もみんなで取ることが多くて直ぐに仲良くなります。部屋は男女相部屋が基本です。別料金を支払えば個室もあります。朝食は泊まったアルベルゲで食べる時もあれば、歩き出して休憩するパブなどで食べる時もありました。

✰【フランス人の道】の【a16】Carrion de los Condesにある公営アルベルゲAlbergue Perraquial de Santa Mariaです。 ここは夕食後、受付のある部屋にシスターと巡礼者達が集まって自己紹介したり歌を一緒に歌ったりして、フランス人の道では人気のあるアルベルゲです。 私は日本の歌を歌うようにリクエストされ笠木透の「わが大地のうた」をひとりで歌いました。

―旅仲間とのコミュニケーションはー
 私は一日に20~30kmを歩きます。同じように20~30kmを歩く方々とは、歩いていると前に行ったり後ろを歩いたりと何度も同じ人と会います。そして同じ宿の時もあります。途中で仲良くなったフランス人の夫婦とは2週間一緒に歩きました。私はフランス語、スペイン語はしゃべれませんのでコミュニケーションのツールとして折り紙のうさぎや祝い鶴などを折って差し上げました。時々折り方を教えてくれと言われ、折り紙教室に。それだけでも話は盛り上がります。日差しの強いフランス、スペインの巡礼路には、私は日本の陣笠を被っていきました。興味を持たれる方が多く、そんな方々には被ってもらって記念写真を撮ったり、そこに日付と名前を書いてもらいました。終いにはその陣笠と自分の帽子と交換してくれという人まで出てきました。フランス語、スペイン語は話さなくても沢山のコミュニケーションが取れました。

―巡礼の荷物はー
 最初はやっぱり不安なのでいろいろと持って行ってしまいます。理想は体重の十分の一と言われています。私も最初は15キロありました。やはり15キロは重く、段々必要でない物を人にあげたり捨てたりしながら12キロぐらいまでに絞りました。外国の方では小型のリアカーのような二輪車を引っ張っている人もいまし、女性の中にはロバに荷物を載せて歩かれる方もいました。また次の宿まで荷物を運んでくれるサービスもあり、使う人もいました。私も何度かつかいました。歩く時期は冬に歩く人は少なく、休暇が取れる夏はとても暑く、多くの人が歩くので泊まるアルベルゲは満室で次の村まで歩くこともあります。人気のあるのが春か秋。私は春に出発しました。春は気温が上がってくるので段々荷物が軽くなるんです。

―道には迷はないのですかー
 途中、スペインでは「黄色い矢印」とホタテ貝の標識が沢山あります。間違っている道を歩いていていると住人が「ここは違うよ、向こうだよ」って教えてくれる時もあります。ガイドブックも参考にしましたが、携帯のアプリ「maps.me」がとても重宝しました。

―巡礼されて何か変わりましたかー
 歩き慣れてくると足も出来てきて自分のペースで歩けるようになります。そうすると精神的なところをいろいろ考えるようになります。五感を取り戻すとでもいうのでしょうか。仕事をしているときは目の前のことに囚われていました。道端の花なんかあまり見もしなかったですが、巡礼路を歩いて野草の写真を撮るようになったり、青く広い空に飛行機雲が何本もあるのをしばらく眺めている時間も好きでした。途中から鳥の声を聞いた時には、何種類さえずっているのかと数えたりもしました。自分と向き合って、自分を見つめなおす、つまり人間本来の五感を取り戻していく、これが巡礼ではないでしょうか。私が巡礼を進める理由はここにあります。

―どんな方が巡礼されるのですかー
 男性は私のような定年後の方、女性は何かの転機を迎えられた方です。例えば女性は転職、リストラそして失恋など、比較的若い方が多かったですね。途中でカップルになる方も。

―今は旅のやり方が変わったー
 どこでもネットが使えるようになって、巡礼の宿さえBooking.comで予約できる時代です。若い方は何処どこへ行ってきたと言われることが多い。私はどこへ行ったよりどんな人と会ったかが重要だと思います。巡礼が終わってみたら世界中の沢山の人と会えました。もう世界一周は必要ないと止めました。

―次世代の伝えたいことー
 最近旅行をした方たちはインスタなんかで綺麗な風景や名所を紹介してくれています。一見プロのガイドブックのようです。一方で途中の過程や人のための情報を出す人が減ってきたように思います。つまり話を広げてドキドキわくわくすることを誰かに教えたいといったことが少なくなったのではと思っています。旅はどこに行ったかでなく、どんな人に出会ったか。そんな旅をしてほしいですね。

✰バックパックを背負ってスペインを歩こう!! (スペイン巡礼 Camino de Santiago)
https://www.facebook.com/groups/170908903270017

                       以上 (インタビュー、編集:砂川)

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